この図のすごいところは、電波通信では当たり前になっている「どんなところで波形が変化し、どんなノイズが乗るのか」を重力波に当てはめて整理した点です。

普通なら障害物を通ると減衰してしまう電磁波とは違い、重力波では宇宙膨張や強力な重力場が波を歪ませる主な要因になります。こうしたモデルがあれば、どの周波数帯を使えばいいのか、どうやって変調や符号化を行うか、受信側で雑音にどう対処するか、などを考えやすくなるのです。

もし技術が進んで人工的に重力波を作って検出できるようになれば、この図に書かれた仕組みをベースに「重力波通信システム」も設計できるかもしれません。SFのように思える話ですが、研究はすでに動き出しています。

重力波通信が実現したらどうなるか?

重力波通信は妨害を受けにくく電波よりもクリアな通信が可能になると考えられています
重力波通信は妨害を受けにくく電波よりもクリアな通信が可能になると考えられています / 重力波通信は妨害を受けにくく電波よりもクリアな通信が可能になると考えられています/Credit:Houtianfu Wang, Ozgur B. Akan . arXiv (2024)

重力波通信は、いまだ実用化に向けて高いハードルを抱えているものの、「物質をほとんど通り抜けられる」という性質が放つ可能性の大きさから、今世界中の研究者たちが注目しています。

ここでは、もし重力波通信が実現したらどんなふうに使われるのか、そしてどのような未来が描けるのか、少しSF的な想像も交えながら考えてみましょう。

極限環境での通信

まず真っ先に思い浮かぶのは、大気中や電磁ノイズの多い場所ではすぐに減衰したり妨害されたりしてしまう電磁波(電波や光)に代わる手段としての重力波通信です。

たとえば惑星の地殻やマントルの内部、あるいは太陽や恒星の中といった、従来の通信方法だとどうしても障害物に阻まれるような環境でも、重力波ならスッと通り抜けられるかもしれません。

もし火山の噴火口の下まで通信回線を引くのが難しいなら、重力波を介して観測機器とやりとりするような未来が来る可能性もあります。