重力波通信とは、空間そのもののゆがみを情報を運ぶ波(キャリア波)として利用する新しい通信手段のアイデアです。

光(電磁波)を使った従来の通信と異なり、重力波は物質をほとんど透過し、宇宙空間をほぼ減衰なく伝わります。

このため、「星の内部を通り抜ける通信ができる」「超遠距離でも比較的減衰が少ない通信が可能になるかもしれない」という点が大きな魅力とされています。

近年、重力波が実際に観測されるようになったことで、天文学分野では「重力波天文学」が一気に花開き、ブラックホールの衝突現象を捉えるなど、これまで電磁波だけでは見ることのできなかった現象の理解が進んできました。

そんな重力波を「通信」に使おうという発想は以前から存在していましたが、長らくSF的なアイデアとみなされることが少なくありませんでした。

ところが最近になって、さまざまな物理学・工学的手法を用い、重力波通信を実現する可能性を真剣に探る研究が世界各地で進められています。

イギリスのケンブリッジ大学で行われた研究では、この夢のある技術を「どうやって重力波をつくるのか」「どうやって検出するのか」「そもそも通信として成立するのか」といった点について、重力波通信の基礎概念と方法論が示されました。

本コラムでは、まず重力波通信という分野がなぜ注目されているのか、その研究史や強みを概観します。

そして、論文が提示している「質量の動きだけで重力波を発生させるシンプルな原理」や、「電波では困難な環境でもほぼ遮蔽されない特性」、さらには最新のアイデアに基づく受信技術や通信チャンネルモデルなど、研究の具体的な中身を紹介していきます。

さらに、既存の電磁通信や量子通信など他の方式との比較を通じて、重力波通信の可能性や課題を掘り下げていきます。

研究内容の詳細は2024年12月26日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されました。

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