筆者は2002~2006年にIEA事務局で勤務し、ファティ・ビロル事務局長は30年来の知己である。4年勤務したIEAに対する愛着は強いし、ビロル事務局長の分析能力、発信能力を高く評価してきた。
IEAは国際機関であり、その活動方針は理事会の影響を強くうける。もともと環境志向の強かった欧州諸国が加盟国の大半を占めることに加え、バイデン政権の下で米国が大きく左旋回したことにより、2021年以降、IEAはグリーンに極端に舵を切った。ある程度はやむを得ないとしても米国が政権交代によって左右に方針が大きく振れることは分かりきっていたことであった。
実現可能性のない2050年ネットゼロエミッションシナリオとの整合性が投資家判断やSBT(Science Based Target)の根拠になり、「世を惑わせてきた」ことの弊害は大きい。一人のOBとして、IEAには再びコモンセンスを踏まえた現実的な見通しを出してほしい。アトキンソンもそうした思いだったのではないだろうか。