彼は「IEAが客観性を失いつつあり、エネルギーの世界では今後10年から20年は依然として化石燃料への依存が圧倒的に続くと考えていることを十分に認識していない」と述べている。IEA事務局内にあって現実に立脚した石油市場分析と願望に立脚した脱化石燃料シナリオの相克を経験したがゆえにアトキンソンの言葉は重い。
トランプ大統領再選に伴い、米国のIEAを見る目は厳しさを増している。昨年12月には上院エネルギー天然資源委員会の共和党メンバーであったジョン・バラッソ上院議員が「IEAの復活とエネルギー安全保障の使命―IEAは設立の理由を忘れてしまったー」と題する報告書をまとめている。
同報告書のポイントは以下の通りであり、バラッソ上院議員は共和党の上院院内総務であるから、トランプ政権下でIEAに対する風当たりは非常に強くなるだろう。
2020年以降、IEAは環境保護団体やその他の非政府組織からの要請を受け、達成不可能なネットゼロの世界的エネルギー転換に焦点を絞り、エネルギー安全保障の使命から大きく逸脱している。 IEA加盟国が「石油・ガスは安全で確実なエネルギーの選択肢ではない」とのアドバイス通りに行動すれば、将来の世界の石油、天然ガス、石炭の生産量は不足し、敵対的な国々に集中するだろう。 2024年2月、バイデン政権は、液化天然ガス輸出の許可プロセスを「一時停止」するという決定を正当化するために、2030年以前に天然ガス需要がピークに達するというIEAの偏った世界エネルギー見通しの予測を利用した。 IEAのネット・ゼロ・エミッション・シナリオは莫大なコストを意図的に無視しており、1974年に米国などがIEAを設立するきっかけとなった中東産油国に石油とガスの生産が集中するという事実も無視している。 IEAは現在ネット・ゼロ・エミッション・シナリオに割いているリソースを、エネルギー転換がエネルギー安全保障に与える影響の分析にあてるべき。更に重要鉱物と核燃料のサプライチェーンにおける中国とロシアの支配がエネルギー安全保障に与える影響について信頼できるシナリオを作成すべき。IEAの活動は加盟国のエネルギー安全保障を強化すべきであり、弱体化させるべきではない。 第119議会で、上院はIEAの改革を主張しなければならない。IEAは、WEOにおいて、米国エネルギー情報局(EIA)が作成しているような、政策に中立的で公平なBAUシナリオを再度作成すべきであり、石油、天然ガス、石炭への投資を終わらせることを支持しないことをはっきりと表明すべきだ。