例えば、同じ物質でも「観察する時間スケールを変えると固体的にも液体的にも見える」という点を、猫に応用しました。

具体的にはデボラ数(De)という値を使って「物質の流動性」を定量的に評価します。

デボラ数は、観測時間と、物質が形を変えるのに必要な時間である緩和時間の比で定義されておりデボラ数が 1 未満なら「液体的」でありデボラ数が 1 以上なら「固体的」とみなせます。

たとえば、水は緩和時間がごく短いので(注いだ瞬間に形を変える)、普通にコップに注ぐ程度の観察時間ではデボラ数が非常に小さく、明らかに“液体”と言えます。

一方、ハチミツは流れるのに少し時間がかかるため、同じ観察時間だとデボラ数は水より大きくなり、やや“固体寄り”に見えることがあります。

もっと極端な例として“山”を考えると、私たちの人生スケールではほぼ固体ですが、何百万年という長い視点で見ると山もゆっくり変形しており、“液体的”にも捉えられるかもしれません。

実際、デボラ数は旧約聖書に登場する預言者デボラの名に由来しており、『長い時間をかければ固体も流動する』という考え方を象徴するものとして紹介されることが多いのです。

「猫は液体か?」というユーモラスな疑問を真剣に検証した物理学者ファルダン氏は、猫の“リラックス時間”(つまり形を変えて落ち着くまでにかかる時間)を緩和時間とみなし、観察時間を設定してデボラ数を計算しています。

たとえば、猫が 5 秒ほどで小さなダンボール箱に入り込み、そのまま1分観察した場合を考えると緩和時間は5秒で、観察時間は60秒となり、デボラ数は0.0833と1よりも遥かに小さな値となりました。

そのため流動学的に猫は“液体的”に振る舞うとみなせる、というわけです。

ややごり押し感のある主張ではありますが、デボラ数にもとづき解釈した場合にはそうなるのです。

他にも興味深いのは、猫にはケチャップやペースト状の物質が持つ「降伏応力」に似た性質があるという指摘です。