また、優れたデザインは模倣される可能性が高い。例えば、無印良品が販売している「白磁歯ブラシスタンド」(税込350円)は、発売後間もないうちに、ほぼ同じデザインの商品が100円ショップで販売されている。

デザインで競合を圧倒できたとしても、継続して収益を獲得し続けるのは難しい。外観デザインだけでは、主力商品になりにくいのだ。

宮本彰前社長のマーケティング

では「マーケティング」面はどうか。

木村美代子新社長と宮本彰前社長とでは、マーケティングに対する考え方が大きく異なる。

宮本前社長は、マーケティング調査を重視しなかった。理由は、「アテにならない」からだ。キングジムが開発する製品は、これまで市場になかったものが多いため、調査が参考にならない。そんな調査に金と時間をかけるのはもったいない。だから

「まず商品化してみる」

会議にかけた企画のうち、およそ8割を商品化する。うまくいけば市場を独占できる。失敗とわかったらすぐ撤退する。狙うは「10打数1安打」。これが、宮本前社長の方針だった。

木村美代子新社長のマーケティング

対して、木村美代子新社長はマーケティングを重視する。

木村新社長は、アスクル時代に、マーケティングの専門家(当時の慶應義塾大学教授でもある)池尾恭一氏から学んだ「理論派」だ。キングジムの総合報告書の社長メッセージでは、(これまでの長所は継承しつつも)

「私が自身のキャリアの中で培ってきた『お客様起点のマーケティング』をキングジムに根付かせていきたい」

と述べている。海外では、文具ブランド「HITOTOKI」の新製品を、ビッグデータ分析に基づき、外部コンサルタントと協働で開発するという。陰りが出ているキングジムの開発力強化につながるか。効果が出るのはしばらく先になるだろう。

既存事業の強化

一方、短期的な収益改善策として期待できるのが、既存事業の強化である。現在進めているのが、テプラのオフィス以外――具体的には医療や福祉、製造などの現場――での利用を広げる「新市場開拓戦略」である。キングジムは、現場での使用に耐えるようバージョンアップした新テプラ(テプラ PRO SR-R560)を11月に投入している。