感染するとペニスに特有のしこりが生じ、リンパ節が腫れて、数カ月後には部分的な脱毛や発熱、瘤のような腫瘍ができたのです。

しかもこれが一生続くことがありました。

この2つの性病はそれぞれ異なる細菌によって発症する別々の病気ですが、18世紀はまだ細菌を見る方法がなかったため、病気は症状によって区別されるだけで、厳密にどう異なる病気であるかはわかっていませんでした。

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左:梅毒の原因となる細菌、右:梅毒の治療現場を描いた1498年の絵/ Credit: ja.wikipedia

そんな中、ジョンは最初に淋病の症状を見せた患者が、後から梅毒の症状を見せるという症例に出会います。

そこでジョンはこの性病患者を診察する中で、ある仮説を立てました。

淋病と梅毒は別々の病気ではなく、単に進行段階が違うだけの同一の疾患であるに違いない」

これを証明するため、ジョンは誰かに淋病を感染させ、正確な進行段階を観察する実験をしようと考えました。

それには淋病にも梅毒にも確実に感染しておらず、24時間体制で診察できる体が必要です。

この条件を満たすのは間違いなく、ジョン自身でした。

そうしてジョンは自らのペニスに傷をつけ、そこに淋病患者から採取した膿を塗り込んだのです。

数週間後、彼の体に異変が現れますが、それは淋病ではなく、梅毒に特有のしこりでした。

彼の予想では自分が見た患者と同様に、まず淋病の症状が現れ、その後期間を置いて梅毒の症状が現れるはずでした。

ジョンは患者が淋病と梅毒の両方に感染している可能性を見落としていたのです。

こうして彼は淋病と梅毒が異なる病気であることを確認しました。

しかしそのせいで彼自身は性行為もしていないのに、自らを梅毒に感染してしまい、その症状は彼を一生涯にわたって苦しめ続けたといいます。

英雄か、悪魔か

このようにジョンには奇怪で危うい一面がありましたが、ロンドンで最も腕の立つ外科医であることは確かでした。