ちなみに生還した女性たちがその後どうなったかというと。

フランス政府は彼女たちを自由人として宣言し、故郷のマダガスカル島に帰すことを提案しましたが、彼女たちはこれを拒みます。

マダガスカル島に戻れば、再び奴隷にされると考えたからです。そのため、彼女たちはフランス領内の島に残り、生涯を過ごしました。

これで事件自体は終幕を迎えますが、2006年になってパリ第4大学の考古学者マックス・ゲルー氏がトロムラン島に出向き、調査を行います。

それは「小さな砂の孤島で一体どうやって15年間も生き延びることができたのか」気になったからです。

そして調査の結果、置き去りにされた人々の真に勇敢な物語が200年以上を時を経て、浮かび上がってきたのです。

15年間をどうやって生き延びたのか?

先に述べたように、トロムラン島は「砂の平地」と呼ぶにふさわしい過酷な場所です。

背の低い草木がまばらに生えているだけで、高い樹木がなく、家を作ったり、焚き火をするための木材もありません。

さらにこの海域は毎年10月から翌5月まで強力なサイクロンが断続的に発生する危険な領域です。

実際、1986年には時速280キロ(!)という突風が記録され、島に生息していたネズミが壊滅する事態が起きています。

食糧もない、家を作る材料もない、突風から隠れる場所もない…

こんな状況下で、どうやって15年間も生き延びることができたのでしょうか?

ゲルー氏らのチームは2006年から計4度にわたる発掘調査を行い、その驚くべき秘密を明らかにしました。

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発掘調査で見つかった「石の家」/ Credit: Thomas Romon et Max Guerout., OpenEdition Journals(2013)

まず彼らが見つけたのは石を材料にして作られた居住施設でした。

トロムラン島には木材がないものの、海岸沿いには石が大量にあったため、生存者たちは砂を掘って壁に石を積み重ねて、居住スペースを作り出していたのです。