自主避難者問題を扱っていた私も、個人情報を歪曲されながら流布されたり警察に頼らざるを得ない暴力沙汰まで経験した。このうち暴力沙汰以外は、安倍晋三元首相暗殺事件後の旧統一教会糾弾報道の暴走ぶりを批判したときも経験した。「冷静になれ」も「そう言われているが私はこう考える」も、危険な一言だったのである。
フジ問題への熱狂に「冷静になれ」と言ったところで立ち止まる人はいないだろう。とはいえ、テレビ局から放送免許を剥奪しろと主張したり、経営基盤を崩壊させようと騒ぐ人も知っておいて損はないだろうから、そうなったときどうなるか説明しておく。
台湾では、反中国を掲げる民進党について嘘や歪曲情報を報道して公正さを欠いたテレビ局「中天電視(製菓会社旺旺グループ系列)」が、放送免許の更新を許可されなかった。ところが中天電視は、規制を受けないYouTubeで親中国・反民進党・反政権色を加速させて放送を続けている。現代の放送は電波と一体のものではなく、いかに見せるか伝えるかのノウハウが本質なのだ。
日本でもフジテレビに限らずキー局が、何らかの事情で電波での放送が行き詰まるなら、インターネットを使用したIP放送に伝達手段を変えるだろう。電波からの撤退は、むしろコストを圧縮する方便に利用されるかもしれない。
このとき大打撃を受けるのは、キー局発のコンテンツをそのまま放送する対価として支払われる電波料を失う地方局だ。電波料は地方局収入のうち三分の一程度を占めるため、フジテレビが電波から撤退すれば系列地方局28社の経営が成り立たなくなり、他のキー局と系列局の関係でも同じ事態が発生する。
さらに地方局と結びつきが強い地方紙や、地方資本への影響も考えなくてはならない。地方の事件や事故、その他の出来事や実態を全国に向けて伝える手立てが、いきなり滅びるのではないか。こうなると偏向が激しいと問題視する人のいるNHKの天下になる。なお東日本大震災と原発事故に際して、地方局がキー局より圧倒的に冷静な報道を行い、被災者を混乱させなかった功績を忘れてはならない。