(3)状況が膠着した際には、まったく違った視点からの数値目標を提示する
今回、ツイートがバズったのはマスク氏が提示する目標が、普通に思いつく目標と比較してずいぶん非常識なのに、結果的にそれがブレークスルーにつながったというエピソードが多く見られたことでした。EVの開発において航続距離ではなく電池の積載量を目標にしたり、ロケットの開発においてエンジンの出力ではなく省略する部品の数を目標にするというエピソードです。これらのエピソードを自伝で読むと、その前後ではいつも状況が膠着していたことがわかります。要するにまっとうなKPIを持ち出して目標にしたところ、開発が止まってしまっていた。そのような場合に全く違う視点からの目標を提示することで膠着状況を打破するというのがマスク氏の手法であることがわかります。
マスク氏はチームに対して明確な目標を提示することがイノベーションを進める手法だと考えています。軌道まで打ち上げる質量1トンあたりのコストや、人が介入しないで走行できる自動運転の平均距離などです。そして、それがうまくいっていない場合に、マスク氏はゴールに到達するための別の数値目標をわざと持ち出すのです。スターリンクのチームに対して、あるときマスク氏は「衛星のソーラーパネルで捉えられる光子の数と、そのうち何個を地上に届けられるのか?」を基準にしてその効率を高められないかをチームに検討させます。チームのリーダーの反応は、「おおっと、それを基準にするという発想はなかったな、みたいな?」というものでした。要するに常識的な目標とは違う見方をマスク氏が提案したわけです。その数字を追った結果、チームは周回軌道の高度を低くすることで通信遅延を減らすという解に到達して、アメリカの連邦通信委員会に新たな軌道計画を申請します。決められた高度では実現できないイノベーションを、前提となる高度を変えることで達成したのです。
このやり方はイノベーションを次々に起こしていくための経営手法としては理解できるのですが、私にもどうしても理解できない点が一点だけあります。マスク氏の場合は、そのようにして直感で持ち出した意外な目標が結果的に正しいのです。この点だけはマスク氏が普通の優れたレジェンド経営者たちよりも天才だからとしか評しようがない、そんなふうに感じます。
(文=Business Journal編集部、協力=鈴木貴博/百年コンサルティング代表取締役)
提供元・Business Journal
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