電力貯蔵手段として使えないとなると、グリーン水素は、従って、日本国内では使い途が殆ど無いことになる。水素を経由するよりも、その前に再エネ電力を直接使えば良いからだ。日本国内ならば、水素をパイプライン輸送するなどよりも、電力を電線で輸送する方が断然楽である。

グリーン水素が使えるとすれば、それは豪州その他の遠隔地で水素を作り、長距離電力輸送が出来ないので水素またはアンモニア等の化学物質に変換して運ぶケースだけである。それが、冒頭に挙げた豪州での水素プロジェクトで、これが挫折するとすれば、日本ではグリーン水素の生きる道はどこにもないはずだ。東京都と東商取は、何を考えてこんな落札をしたのであろうか?

世界の水素の潮流は、天然ガス等の改質で得られる「グレー」または「ブルー」系の水素に見切りをつけ、再エネ電力に頼る「グリーン」系にシフトしつつある。化石燃料から水素を作ると、その際に必ずCO2が発生するので、CCS(炭素固定・埋立)などを併用しなければならず、エネルギー的にもコスト的にも不利になるからである。

世界で実際に供給されている水素の大部分は化石燃料由来だが、それらは元々エネルギー供給のためではなく、アンモニアその他の化学物質製造の原料を得るために作られていた。化石燃料を使うのなら、それを直接使うのがもちろん最も効率的であり、わざわざエネルギーをロスして水素を作る意味は元々ないのである。

しかしもう一つの道であるグリーン水素にも上記の困難がある。日本では御用マスコミが相も変わらず脳天気なグリーン水素礼賛記事を載せているが、水素先進国の欧州・ドイツや豪州の現状を見るならば、現実は非常に厳しいことを認識しなければならないはずだ。

その一方で、例えばアジアのシンガポールでは「水素燃料に対応する複合火力発電所」を建設する計画が発表されている。初期段階の発電の30%以上に水素燃料を使用し、将来的にはすべての発電を水素で行うことが可能になると。