それに加えて、世界的に比較してエネルギー原単位とそれに付随したCO2原単位が相対的に低い日本の産業生産活動が縮小し、より原単位の悪い海外製品に置き換わることは、世界的に見てCO2排出増(いわゆるリーケージ)を招き、温暖化対策にも逆行する結果を招くことになり、気候変動対策になりえないのである。

そうであるとすると、実は今回のエネルギー基本計画案で先に引用した経済効率性の確保に関する記述

「エネルギー多消費産業を中心とする製造業では、国際的に遜色のない価格でエネルギー供給が行われるかが重要な要素となる。」

は、日本の産業競争力を維持し、相対的に排出原単位の低い生産によって気候変動対策に貢献するうえで、実は極めて重要な必要条件なのだが、本計画では「国際的に遜色のないエネルギー価格」とはいったいどんな水準なのか、それは何をベンチマークとするのかといった指標に関する具体的な記述はなく、またそれを遜色ない水準に担保するための具体的な政策措置についてもどこにも規定されていない。

再エネ拡大の課題とエネルギーコストのトレードオフ

本計画の検討をおこなった基本政策分科会で紹介された発電コスト検証、特に変動性再エネ(太陽光、風力)の大量導入時に必然的に発生する外部不経済を統合した実用上のコストのシミュレーションでは、変動性再エネのシェアが拡大するに伴い急激に統合コストが上昇することが示されている。

すなわち、変動性再エネによるエネルギーの脱炭素拡大とエネルギーコストの間には明確なトレードオフがあることが明らかになっている中で、いかにして国際的の遜色のないエネルギー価格を担保するかが、実は本基本計画の最大の政策課題の一つになるのは明らかであり、それが今回示されていないのは片手落ちである。

従って今回の計画案には記載されていないものの、本計画の実施期間中に、何をベンチマークにどういった水準のエネルギー価格を目指すか、トレードオフを克服してそれを実現するための具体的な政策手段をどうするべきかといった課題について、徹底的に検討・議論して、結論を出すことを本計画の中でもきちんと位置づけていただくように要望したい。