しかし世界の趨勢をみると、従来野心的な削減目標を掲げてきた先進国の間でも米国が返り咲いたトランプ大統領の下でパリ協定から離脱を決め、NDCを撤回して化石燃料を掘って掘って掘りまくる(Drill Baby Drill)政策に転換して、主要国間で最も安いエネルギーコストのさらなる低減を進めていくことが確実な情勢となっている。
一方、従来再エネ、非化石エネルギーへの転換と脱炭素化を強く推し進めてきた欧州が、ロシア・ウクライナ紛争の中で安価なロシア産天然ガスへのアクセスが閉ざされた結果、エネルギーコストの上昇により産業の空洞化と社会(有権者)の反発を招いた結果、選挙で右派・極右勢力の台頭をもたらし、従来の環境最優先の政策の継続が危ぶまれている中、日本だけがこうした世界の趨勢から取り残されたように、従来にならって野心的な削減目標(60%削減を上回る下に凸の目標)を掲げるなどという「自爆テロ」は絶対に避けるべきである。
ここは2050年にカーボンニュートラルを目指すという理想に沿った直線的な径路(IPCCの1.5℃シナリオに整合している)をそれが実現できるかどうか予断を示さない形で一旦掲げるべきだろう。もちろん現在の技術でそれを実現する政策や道筋は描けないのだが、それを可能とするために必要な革新技術開発を推し進める、といった形で、「技術」の野心度を高く掲げたNDCとしておき、実際には今後の世界の趨勢を慎重に見極めて順次見直していくのが上策というものであろう。
この論点は本稿の読者の皆様もぜひともパブコメで指摘していただきたいポイントである。
※ ちなみに地球温暖化対策計画案に対するパブコメ提出の仕方は以下を参照いただきたい。(締め切りは1月26日)
「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見募集について
原子力の活用とエネルギー安全保障