いくつかのがんでは、60代や70代よりも80代のほうが発症リスクが低いことが知られています。

この不思議な現象について、これまでは生物学的な説明があまりなく、主に受診率や老衰など他の疾患との関連が中心に語られてきました。

しかし英国ケンブリッジ大学を中心とする研究チームによる最新の研究で、80代以降のがん発症リスク低下を説明できる生物学的メカニズムが示唆されました。

研究者たちは「私たちの結果は、高齢者(80~85歳超)にみられるがん発症率の低下を説明できるかもしれない」と述べています。

しかし、なぜ高齢になるほど、がんを抑制するようなメカニズムが細胞内で働くのでしょうか?

研究内容の詳細は『Nature』にて「老化は鉄の恒常性を再プログラムすることで幹細胞性と腫瘍形成を制限する(Ageing limits stemness and tumorigenesis by reprogramming iron homeostasis)」とのタイトルで掲載されました。

目次

  • 80代以降の高齢で「がんリスク」が低下する場合がある
  • がんリスクが80代で減少する理由

80代以降の高齢で「がんリスク」が低下する場合がある

がんリスクは80代以降むしろ低下する場合がある、その理由が判明
がんリスクは80代以降むしろ低下する場合がある、その理由が判明 / このグラフでは85歳以降の年齢帯にてがんリスクが低下していることが示されています。同様に大腸がんや今回の研究対象となった肺がんの一種も、高齢帯になると発症リスクが停滞したりやや低下するという統計結果が得られています。このような結果はがんがDNAのエラー蓄積で起こるとする説と照らし合わせると十分説明しきれません。/Credit:National Cancer Institute

がんは加齢とともに発症リスクが高まる病気として広く知られています。

実際、多くの疫学調査でも、40代や50代に比べると60代から70代でがんと診断されるケースが急増することが示されています。