医術は尊い命を救うために築き上げられた叡智であり、これまでに数多くの名医が歴史に名を残してきました。
しかし歴史の中には、自らの根拠なき理論を盲信し、「実際の患者で試したい」と危険な欲望に駆られた狂気の医者が存在します。
アメリカの精神科医ヘンリー・コットン(1876〜1933)は、そうした有名なマッドドクターの一人でした。
彼は「精神病の原因は細菌に感染した歯や臓器にある」として、患者から健康な歯と臓器を摘出しまくったのです。
今回はこの狂気の医者ヘンリー・コットンが行った非人道的な治療について迫ります。
目次
- 精神病を治すために歯や臓器を摘出する
- 実際は3人に1人が死亡していた⁈
精神病を治すために歯や臓器を摘出する
ヘンリー・コットンはジョンズ・ホプキンス大学とメリーランド大学にて医学を修了し、1907年に精神科医として、ニュージャージー州立病院(現在のトレントン精神病院)の院長に就任します。
コットンは当時すでに、アメリカにおける生物学的精神医学の第一人者として注目され始めていました。
生物学的精神医学とは、精神疾患の発症に関係する神経生物学的な側面を理解しようとする医療分野です。
その中でコットンはそれ以前の常識にはない独自の理論を持つに至りました。
それは「あらゆる精神疾患は何らかの細菌に感染した歯や臓器が原因となっており、それらを摘出することで精神疾患は治療できる」というものでした。
しかしコットンの指摘する細菌がどんなものかは全くもって不明であり、この理論を裏付ける科学的証拠も存在していなかったのです。
今日ならすぐに大問題となるところですが、当時はまだ彼の誤りを指摘できる医学的知識は準備されていませんでした。
そうしてコットンは持論が正しいことを証明するために、実際の精神病患者に対して自ら治療を実践するのです。