そんな中、東京都立大学と杏林(きょうりん)大学の研究チームが2023年に有力な新説を発表します(Physiological Entomology, 2023)。
それによると、謎の答えは昆虫と甲殻類における「外骨格のレシピ」の違いにあるとのこと。
一体どういうことか?
昆虫と甲殻類が遺伝的に近縁関係にあり、外骨格のレシピの一部も互いに共通している点は確かにあります。
例えば、エビの殻に含まれる「トロポミオシン」という物質は、私たちが毛嫌いする”黒光りのG”の外骨格にも含まれているのです。
しかしそれでも昆虫と甲殻類の外骨格には大きな違いがあります。
まずもって、甲殻類の殻は海水に豊富に含まれている「カルシウム(Ca)」を主原料として使っています。
カルシウムを材料とすることで、外骨格がより頑丈で重みが増すことになるのです。
これは天敵の攻撃から身を守ったり、海中の高い水圧に耐えるのに欠かせません。
一方で、4億年以上前に陸に上がったムカデエビは愕然としたことでしょう。
陸上には海とは違ってカルシウムがほとんどなかったからです。
しかし陸上でも乾燥や天敵から身を守るには硬い外骨格が必須。また昆虫は中がふわトロなので、外骨格がなければまともに歩けません。
「どないしよ?」と考えた昆虫の祖先はカルシウムではなく、空気中に豊富にある「酸素」を代用することにしました。
空気中には海中とは違って30倍以上の酸素量があったからです。
研究チームが調べたところ、昆虫は空気中にたっぷりある酸素分子に加え、「マルチ銅オキシデース2(MCO2)」と呼ばれる酵素をかけ合わせる化学反応によって、外骨格の硬化を行っていることが判明しました。