飢え、病気、戦争、災害…
この地球上で人類が何不自由なく暮らしていくには、あまりにも困難なことが多く存在します。
「みんなが何の苦労もなく生きられる世界になればなぁ〜」と夢見たことがあるかもしれません。
実は過去にマウスを使ってこの夢を実現させた研究者がいます。
研究者の名は「カルフーン」、その実験名は「ユニバース25」、通称「楽園実験」と呼ばれています。
ここでマウスは飢えや病気、天敵など、あらゆる脅威を排除した楽園に置かれました。
しかしこの楽園実験は恐ろしい結末を迎えるのです。
これからお話しする物語は、私たち人類の過去、現在、そして未来を映し出すものかもしれません。
目次
- 飢えも病気も天敵もいない「楽園実験」の始まり
- 群れが誕生し、マウス同士の争いが勃発!
- 楽園が地獄に変わる「終末期」へ
飢えも病気も天敵もいない「楽園実験」の始まり
「楽園実験」が行われたのは1968年のこと。
60年代前半、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)は、同国東部メリーランド州プールズビル近郊で農地を手に入れました。
この土地に建てられた施設で研究プロジェクトを率いていたのが、動物行動学者のジョン・B・カルフーン(1917〜1995)です。
1940年代から1950年代にかけて、カルフーンはネズミの行動観察の中で、特定のエリアでネズミが繁殖しすぎて過密状態が生じると、マウスに異常行動や個体間の攻撃増加などが起きることを発見します。
そしてカルフーンはこの現象が、当時世界的に進んでいた都市化で起こる諸問題と類似する可能性を考えました。
都市では、物資の流通が充実し、農村部と比べて非常に安定した暮らしができます。一方で、都市は人口密度がどんどん高まっていくことで、社会的なストレスが高まっていくことが指摘されていました。
そこでカルフーンは「限定された空間に一切の脅威がない楽園を作りそこで生活させたら、その生物はどうなるんだろう?」と考え、1968年の7月9日にマウスを用いた楽園実験を開始しました。