そこで控訴審が「東部NY州最高裁判所」でマーチャン判事が執った手続きや判断に誤りがあったか否かを審理する際の問題点だが、筆者は前掲拙稿で「指示書」の中身と取扱いについてこう書いた(太字は筆者)。
「(判事は指示書の)説明には少なくとも1時間掛る」と述べている。陪審員に読み上げられたその指示書は55頁、原文で1万字(AI邦訳で2.5万字)ある。
マーチャンによって「陪審員に読み上げられた」だけという、この指示書の取扱いについて、元オハイオ州の検察官で判事経験あるマイク・アレン弁護士は、「私が判事として陪審裁判を担当した際は必ず陪審員に指示書のコピーを渡した」とし、マーチャン判事がなぜそうしなかったのか理解できないと語っている(24年5月30日の『Epoch times』)。こうした膨大な指示を、急拵えの陪審員が一度の読み上げで理解できるはずもない。
事実、同紙に拠れば陪審員は審議中に何度もマーチャンにメモを送り、証言記録を要求したり、読み上げられた指示を再確認したりした。裁判をウォッチしていたジョナサン・ターリー法学教授は「指示を確認することは特に興味深い」とし、「指示を再度聞く唯一の理由は、陪審員が意見の相違がある場合に基準を明確にするためだ」と述べている。
前記は取り扱いだが、中身に関しても、起訴された犯罪に適用される「NY州統合法 第一級業務記録改竄罪 刑法第175条第10項」についてのマーチャン判事の説明に関して、筆者はこう書いた。
(マーチャンは同法の)「第175条第10項」について述べる前に、「付随責任」の項で「法律は、2人以上の個人が共同で罪を犯すことがあり、一定の状況下では、それぞれが他の者の行為に対して刑事責任を問われることがあることを認めている」と、コーエンとトランプが「協調した」ことを示唆する。
この事案の構図は、トランプの代理人マイケル・コーエンが原告女性ダニエルズへの口止め料を立て替え払いし、それをトランプが彼に返済した金が選挙資金から出ていたとするものだ。が、左派の『ニューヨーク・タイムズ』さえ、この構図を「検事局の法理論が検証されていないだけではなく不合理だ」と非難していた。