■
そこで控訴審のことに進む前に、米国の裁判制度を少しさらっておく。
三審制の日本では、地方裁判所(一審)の判決を管轄の高等裁判所(二審)に控訴でき、高等裁判所の判決は最高裁判所(三審)に上告できる。他方、連邦制の米国は少々複雑な連邦と州の二元的な仕組みであり、事案によっては、州裁判所と連邦裁判所のどちらでも、或いは州と連邦どちらかでしか処理できない、といった複雑でユニークなシステムになっているようだ。
先ず連邦では、裁判所は上位から順に、連邦最高裁判所(US Supreme Court)、連邦控訴裁判所(U.S. Court of Appeals)、連邦地方裁判所(US District Court)の三審制である。州も基本的には、上位から州最高裁判所、州控訴裁判所、州地方裁判所という三審制だが、州によっては控訴裁判所のない二審制を採用している場合もある。
州裁判所の名称も州毎に決められるので、例えば三審制のニューヨーク州では上位から順に、Court of Appeals(控訴裁判所)、Appellate Division of Supreme Court(最高裁判所控訴部)で、Supreme Court(最高裁判所)が最下級だ。本件の裁判所も日本のメディアでは「東部NY州地裁」だが、正確には「東部NY州最高裁判所」で、マーチャンの肩書も「Justice of the New York Supreme Court」である。
従って、トランプが控訴するのはNY州最高裁判所控訴部になるはずだ。その後更に控訴が進む場合は、先ずNY州控訴裁判所に行き、最終的には米国における最上位の連邦最高裁判所にまで進むのだろう。が、その場合は本事案に「連邦の問題」、例えば「大統領の免責問題」などが絡むかどうかが焦点になる。
そこでトランプの控訴だが、NY州控訴裁判所では「東部NY州最高裁判所」の評決に纏わる事実関係は判断しない。これは、連邦控訴裁判所や日本の最高裁が、下級審が吟味・確定した事実関係の判断を再度行わず、連邦地裁や日本の高裁の手続きや判断に誤りがあったか否かに重点を置くのと同様だ。