坂井は練習生の手前動揺を隠し、先ずはまだ2時間以上飛び続けられる燃料のあることを確認した後、急上昇と急下降そして左右への横滑りを何度も何度も繰り返し、その反動を利用して脚を片方ずつ出すことに成功、無事着陸したというのだ。

他方、韓国の事故ではバードストライクに遭ったチェジュ航空機にはエマージェンシーサインが点灯し、2分間しか飛び続けられなかったという。従って、坂井が試みた様な脚出しどころか、何度か着陸をやり直す間すらなかったようだ。だが、コンクリの壁さえなければあんな大事故にならなかったのではとの疑問は残る。

このところTVのモーニングショーでも2度ばかり壁のことを取り上げていた。壁はその上にローカライザー(方位角表示施設)を設置するためのものであるという。コメンテーターらはもっと壊れ易い構造物にしておけば犠牲者が少なくて済んだかも知れぬと述べ、筆者も同感した。

が、「事故機と同型機を操縦の元操縦士『最高の胴体着陸だった』メディア指摘に反論」と題した1月7日の『朝鮮日報』の記事を読み、そしてGoogleで務安空港の航空写真を視認して、これらの疑問がほぼ氷解した。

記事には、元操縦士が「反対方向から進入した滑走路の中間に着陸を試みたことにつき、『最も近い滑走路に回って着陸を試みた』と話した」とある。片方のエンジンが故障して着陸しようとしたが、片脚しか出ていなかったので、両脚を出して着陸のやり直しをしようとしたところ、もう片方のエンジンも故障したので、止むを得ず旋回し「最も近い」「反対方向」の「滑走路の中間着陸を試みた」というのである。

なるほどGoogleの航空写真を見ると、務安空港は南から北へ向かって離着陸する仕様らしく、滑走路南端に件のコンクリ壁の様なものが確認でき、その北側200m辺りから300mほどタイヤの接地痕が黒々と続いている。反対側の滑走路北端にコンクリ壁はなく、その手前200mほどから南に200mほどタイヤ痕があるが、色が薄いので常用ではなさそうだ。