また、Frank(2007)も経済格差が拡大する社会では、他者との比較や競争に駆り立てられやすくなると主張しました。

これらの研究知見を女性の性的自己表現にあてはめると、「高い所得不平等下では、女性同士の競争が激しくなり、外見的魅力を高める行動が増える」という仮説が導かれます。

実際、Blakeらの分析によれば、所得格差の大きい地域ほどSNS上で“セクシーなセルフィー”が多いことが統計データからも明らかです。

これはジェンダー不平等説とは異なる視点を提供するといえるでしょう。

ソーシャルメディアは女性の自己表現に新たなプラットフォームをもたらし、従来のメディア環境とは異なる動態を生み出しています。

Chou & Edge(2012)の研究によると、FacebookなどのSNS上での自己提示は利用者の心理状態や自己評価に大きく影響しうるとのことですが、InstagramやTikTokなどビジュアルを主体とするSNSでは、とりわけ女性が自らの画像を通じて積極的に発信する機会が増えました。

さらにブランディングやインフルエンサーマーケティングの視点からは、外見的魅力やセクシーさを活かした投稿がフォロワー数や広告収入につながる場合もあり、「女性の抑圧」という枠組みだけでは割り切れない多面的な現象といえます。

従来のジェンダー不平等理論は、社会的・文化的に構築された男性優位の影響を検証するうえで重要なフレームワークでした。

しかし近年では、女性の性的自己表現が一律に「抑圧の産物」であるとは言いきれない事例も増えています。

所得格差のような経済的要因が女性間競争を強化し、それがソーシャルメディア上での性的自己表現を促す──この見方は、これまでの理論が説明しきれなかった現象を補完するものとして注目されているのです。

こうした多角的な先行研究の文脈のなかで、Blakeらの研究結果は「ジェンダー不平等ではなく所得不平等が、女性の性的自己表現行動に強く影響する」という新たな知見を提示しました。