従来は「女性の性的セルフィー(自撮り)はジェンダー抑圧の産物」という見方が主流でしたが、Blakeらの分析は、それだけでは説明しきれない実態を浮き彫りにしました。

著者らは、所得不平等の激しい社会では相対的な地位競争が活発になり、その一環として女性が“外見を磨く・魅力を高める”戦略を取る可能性を指摘しています。

これは、人間以外の動物の雌でも「リソースの偏在」が雌間競争を活性化させる事例があるとする進化心理学・動物行動学の見地とも合致する点です。

さらに著者らは、今回の結果が必ずしも「ジェンダー不平等が無関係」を意味しないことも示唆しています。

文化的・宗教的要因の影響や、男性ユーザーが女性のセクシュアルな写真をシェアする動機など、ジェンダー構造に根ざした要素も複合的に作用している可能性があるためです。

 ただし「少なくとも本研究が扱った主要な指標の範囲では、ジェンダー不平等よりも所得不平等の方が強く性的自己表現と関連する」という結論を強調しています。

この主張をさらに検証するため、先行研究も合わせて見ていきましょう。

先にも述べたように、女性のセクシュアライズや性的自己表現を考えるうえで長らく大きな影響力をもってきたのが「ジェンダー不平等」に注目する理論です。

たとえば、女性が自らを性対象化(self-objectification)するのは、社会的・文化的な男性優位構造を内面化した結果だとされ(Fredrickson & Roberts, 1997 など)、女性が性的イメージを投稿するのは「抑圧の結果」という批判が繰り返し提示されてきました。

一方、社会学や経済学、進化心理学などの領域では、「所得不平等」こそが個人間の競争行動を高める要因になると繰り返し指摘されています。

たとえばWilkinson & Pickett(2009)は、所得格差の拡大が人々の地位不安や相対的剥奪感を強め、さまざまな社会問題を悪化させると論じています。