近年、SNS利用の拡大によって個人が外見やライフスタイルを世界規模で発信しやすくなった一方、このような自己表現がどのような社会的要因によって増幅されるのかは、まだ十分に解明されていません。

Blakeらが注目した「所得不平等」という視点は、これまでの「ジェンダー不平等=女性の抑圧」では説明しきれなかった点を補う、非常に興味深い切り口です。

社会心理学、経済学、進化生物学などの学際的研究では、経済格差が「個人間の競争」を強めることを示唆するデータが数多く蓄積されています。

女性のセクシュアライズされた自己表現を、男性からの一方的なオブジェクト化(客体化)として捉えるだけでなく、女性自身が主体的に戦略として選択している可能性がある──本コラムでは、こうした先行研究の示唆を踏まえながら、今後の研究や社会への含意を探っていきたいと思います。

科学が「女性の抑圧」を疑い始めている:一元的抑圧論の衰退

科学が「女性の抑圧」を疑い始めている:一元的抑圧論の衰退
科学が「女性の抑圧」を疑い始めている:一元的抑圧論の衰退 / Credit:Canva . 川勝康弘

女性の抑圧が性的画像の蔓延を招いているのか。それとも、こうした性的画像は女性にとって一種の「性戦略」なのか──。

この疑問を解明するために、BlakeらはSNS上で公開されている“セクシュアルなセルフィー”(“sexy selfies”)を大規模に収集し、その投稿頻度が地域や国ごとの社会指標とどのように関連するか統計的に検証しました。

具体的には、TwitterとInstagramから約45万件の投稿を収集し、位置情報などの条件を満たす約6万8千件を分析対象としています。

さらに、投稿分析だけでなく、美容サロンや女性向け衣料品店への支出データといった「外見関連の消費」も検討対象に含めることで、SNS上の自己表現が実社会での外見投資と並行して行われる実態を多角的に分析しました。

その結果、極めて興味深い事実が明らかになりました。