研究者たちは今回の研究成果を応用すれば、原子の質量を武器にした重力波測定が可能になると述べています。

重力波とは、宇宙で起こるブラックホールの合体や中性子星の衝突といった超巨大イベントの際、時空がさざ波のようにゆらぐ現象です。LIGOやVirgoなどの巨大なレーザー干渉計を用いて検出されはじめ、いまや天文学の最先端を走るテーマでもあります。

しかし、こうしたレーザー干渉計は「光=質量のない粒子(フォトン)」を使っているため、とても微弱なゆらぎを捉えるには装置自体を大きく・精密に作る必要がありました。

ここで注目されるのが質量を持つ粒子、すなわち“原子”を使うというアイデアです。

光は軽々と空間を跳ね回るジャイロのような「回転する軽いセンサー」だと考えてみてください。

軽いセンサーはふわふわ飛び回っていても、重力波によって時空がわずかに波打っただけでは気づきにくくなっています。

一方、質量のある原子は、もう少しがっしりした「回転する重いセンサー」のようなもの。

このような質量を持つ原子ビームを使うと、空間がほんのわずかにゆがむだけでも、物質波のパターンが変化すると期待できます。

たとえば、重力波が通過して空間がほんのわずかに伸び縮みすれば、原子の飛ぶ道のりや干渉パターンが影響を受け、「ここに波が来た!」という証拠をつかめるかもしれません。

あるいいはサーフボードでたとえるならば、光を使う場合、波が小さすぎるとサーフボードが浮き沈みを見逃してしまうかもしれません。しかし、質量のある原子の“ボード”なら、微小なうねりでもバランスが崩れやすい=ゆらぎを拾いやすい可能性があるのです。

(※レーザー干渉計(LIGOなど)では光(質量ゼロの粒子)を使っていますが、原子には質量があります。質量を持つ粒子ほど、空間がわずかにゆがんだ際の影響を“自分の動き”として受け取りやすい、という期待されています)