どこを貫通したかわからないので結果的に壁が壊れない……そんな話があるようです。
ドイツ航空宇宙センター(DLR)で行われた最新の量子力学研究によって、高エネルギーの原子ビームが1原子層という極限に薄い膜を傷つけることなく透過できることが明らかになりました。
壁役となったのは、炭素原子がハチの巣状に並ぶ「グラフェン」という素材です。
新たな研究ではこの「すぐに壊れてしまいそう」と思われてきたこの超薄膜が、高速ビームの衝撃を100時間にわたり受けても破壊されないという、不思議な結果が実証されました。
またその後の分析により、この現象の裏側には量子力学特有の“どこを通ったかわからない”という性質と、グラフェンのもつ強靱な炭素結合が組み合わさった複合的なメカニズムが潜んでいることが分かりました。
研究チームは、この現象が超高感度の重力波検出機などの先端研究で活躍する可能性があると述べています。
しかし「グラフェンの壁を量子力学的な性質を獲得した原子がスルリと通り抜けてしまう」というSFめいた事実は、いったいどうして起きてしまうのでしょうか?
研究内容の詳細はプレプリントサーバーである「arXiv」にて公開されています。
目次
- ビームに100時間貫通され続けても無傷な壁
- 量子的不確定性とグラフェンの耐久性
- 量子的な壁抜けが何の役に立つか?
ビームに100時間貫通され続けても無傷な壁
多くの人は、「高速ビームを薄い膜に当てたら、すぐに穴だらけになるのでは?」と考えるのではないでしょうか。
私たちがイメージする“高速ビーム”と言えば、工場のレーザー切断機や粒子加速器など、強力なエネルギーで何かを削ったり壊したりする装置を思い浮かべるものです。
あるいは、SF作品に登場するビーム兵器を思い描くかもしれません。
そのうえ、膜がわずか1原子の厚さしかなければ、「一瞬で壊れてしまうだろう」と想像するのは自然なことでしょう。