調査に当たってはまず、水素(H)やヘリウム(He)の原子を数百~1600 eV(電子ボルト)という比較的高いエネルギーまで加速できる装置を用意しました。イメージとしては、高電圧をかけて電子(あるいは原子)を飛ばすようなものです。これにより、原子は非常に高い速度を獲得します。

(※なお、実際には粒子をイオン化したあと、途中で電荷を中和して「電荷0」の状態にする調整も行います。)

次に用意されたのが、炭素原子がハニカム(蜂の巣)状に並ぶ「グラフェン」です。

先に述べたようにグラフェンの炭素結合は予想以上に強固で、その強度は鋼鉄の200倍にも達します。

三次元方向への剥がれにはやや弱いものの、シートとしては抜群の強度を誇るのです。

実験では、このグラフェンを薄い枠組みで支え、中央部分に高速ビームを照射できるようにしました。

そして、その背後にはスクリーンを設置し、「原子がどのような状態で通過しているのか」(粒子なのか、波なのか)が確かめられました。

スクリーンに映し出されたしま模様
スクリーンに映し出されたしま模様 / Credit:Nick A. von Jeinsen et al . Phys. Rev. Lett (2023)

結果として観測されたのは、ただ一点に集まる粒子のスポットではなく、なんとリング状に広がる“回折パターン”でした。

回折とは、もともと波が狭い隙間や障害物を通過するときに起こる現象で、水面の波が堤防の隙間を抜けたあとに円形状に広がるイメージに近いものです。

グラフェンの結晶構造と原子の干渉により、ランダムな向き(多結晶の場合)ごとに異なる回折角度が生じます。

その結果、スクリーンには「デバイ・シェラーリング」と呼ばれる同心円状のリングが複数映し出されるのです。

これは有名な二重スリット実験で見られる干渉パターンと似た性質を示します。

このリングが意味するのは、「グラフェンを通り抜けた原子が、波として振る舞っている」ということ。