もし単なる飛び道具のように直進するだけなら、スクリーン上にはビーム形状の点や円が1つ映るだけで終わるはずです。
複数のリングが現れたという事実は、原子同士が干渉し合い、波動的に広がっているという確かな証拠といえます。
さらに、研究チームは原子を**数百~1600 eV(keVオーダー)**という、かなり高いエネルギー領域まで加速しました。
イメージとしては、小石を投げるのではなく、大砲で弾丸を撃ち出すような勢いです。エネルギーが高いほど原子の「運動量」も大きくなり、それに伴って回折パターン――つまりスクリーンに映るリングの大きさ(半径)も変化していきます。
ある程度エネルギーが大きくなると、リングが1本では終わらず、2本、3本…と次々に増えていく現象が見られました。
これはグラフェンと原子が非常に大きな力(運動量)を交換していることを示しています。
なかには最大8次の回折ベクトルが観測されたという報告もあり、従来の原子回折実験と比べても“飛び抜けて強烈”な運動量変化が起きているわけです。
例えるなら、花火が一重、二重、三重と連続して弾けるように、エネルギーが上がるにつれてリングの層が増えていくイメージでしょう。
そこには原子が「まるで波のように」広がりながら、グラフェンとの間で大きな衝撃(運動量)をやりとりしている様子が映し出されているのです。
もうひとつ注目すべきポイントは、普通なら1原子層のグラフェンが耐えられないほど高速なビームを100時間も照射し続けたにもかかわらず、グラフェンにはまったく損傷が見られなかったことです。
もちろん、さらに高いエネルギーや特別な照射条件になれば、破壊が起きる可能性は否定できません。しかし、少なくとも本研究で使われたエネルギーレベル(数百~1600 eV)では、グラフェンが想像を超える耐久性を示したというわけです。
しかし、なぜこのような奇妙な結果になったのでしょうか?