マスクは密着式で、外れたり漏れないように数本のベルトでがっちり頭に固定する。睡眠時無呼吸なら外れても自力呼吸できるが、難病で呼吸麻痺があれば、外れれば呼吸困難になり死亡もあり得る。
問題は「なぜマスクがはずれ、何十分も気付かなかったか」である。病院全体としてはさまざまな機能認定を受けており、専門看護師や認定看護師も配置していることから、本来は十分な機能を持つ病院と言える。
当該病院の公表書面でも詳細は触れられていないが、この病院にはいわゆる急性期病床の他に療養病床があり、地域包括ケア病棟・回復期リハビリテーション病棟として運用されている。これはいわゆる老人病棟(以後そのように略)である。その違いは看護師配置にある。
急性期では7:1、つまり患者7人に対し1名の看護師を配置するが、老人病棟では13:1、つまり半分の配置になる。それだけ目と手が行き届かなくなる。
高度で煩雑な医療が必要ない患者が対象であるためで、本来は合理的である。当該病院は310床で6病棟あるので(ICU等除く)、一病棟あたりざっと50床、7:1なら日中は7人の看護師が居ることになるが、老人病棟では4人居るかどうかとなる。手術や検査、入浴介助やリハビリに同行したりもするので、全員病棟内に居るとは限らない。
筋ジストロフィー等の進行性・回復困難な難病の場合、介護負担軽減や体調悪化時に一時的に入院することも多い。その場合、生命に緊急の危険が無い場合も多く、急性期病棟ではない上記「老人病棟」入院もあり得る。今回新型コロナとのことで、ハイリスクなので念のための入院観察だった可能性がある。もし重篤な肺炎なら気管切開での人工呼吸器が必要だが、そうではなかった。
今や急性期病床でも入院患者はほとんどが高齢者だ。老人病棟で受け入れる患者とは、多くが要介護者や認知症患者である。認知症患者に点滴などの医療を行うことは「介護(医療)への抵抗」から困難なことが多い。オムツや便をいじり自身や周囲を汚染したり、徘徊する等の症状もあり、複数名での対応が必要なことも多い。