こうして、中国経済はWTO加盟交渉の折、中国代表団が力説していたような市場経済主導とは似ても似つかぬ姿になった。例えば、加盟時に中国が法的拘束力のある約束として承諾した義務には、次のようなくだりがある。

【WTO中国加盟議定書】 中国代表はさらに、中国はすべての国有企業および国有投資企業が、その購買と販売をひとえに商業的考慮(たとえば価格、品質、販売可能性、調達可能性)に基づいて行うこと、及び他のWTO加盟国の企業は、これらの(国有)企業との販売及び調達に無差別的な契約条件の下で、参加、競争できる適切な機会を与えられることを確保すると確認した。

加えて、中国政府は、直接、間接を問わず、国有企業および国有投資企業の商業的決定(量、価値、購入され又は販売される製品の原産国を含む)に対して、WTO協定に整合的な方法によるもののほか、影響力を行使することはない。

2001.11.18 加盟作業部会報告書 第6章パラグラフ46

いま読むと「何の笑い話ですかこれは?」という感じだ。中国自身、四半世紀前にこんな約束をしたことを覚えてはいないだろう。そこから「中国はWTOに加盟するため我々を騙した」という欧米で聞く例の論調が出てくる。

しかし、私はそうは思わない。江沢民は2000年に民営企業家に共産党入党の途を拓いたが、これも保守派がブチ切れるような出来事だった。「西側を騙すための陽動作戦」にしては、手が込みすぎていて、コストが大きすぎた。WTO加盟交渉の中国代表団も嘘をつく積もりはなく、「中国はこれから市場経済化していく」と考えていたと思う。

ただ、中国人すべてがそう考えていた訳ではなかった。「民営企業が大きく成長し、政府の経済関与は減って、西側で一般的な市場経済主導の中国経済になっていくことが中国の発展を約束し、国益に叶う」と考える改革派の人々とは別に、「そんなやり方は社会主義公有制という国是に反して間違っている」と考える保守派の人々もいた。