同時に、他地域のシカが保護地区に入り込むことで、1000年以上保たれてきた血統が変わってしまうかもしれない危機的状況に置かれていることもわかってきました。
権威のある寺社から神鹿とされた結果、他地域のシカとは違うDNAを持つことになった奈良のシカ。
実は江戸時代から続いている角切りという人への安全対策と鹿せんべいの販売以外は放置されている、人を見れば逃げる野生動物とは異なる、DNAレベルで他地域のシカとは違う「お鹿様」を脅かしているのは観光客でも管理地区でもなく、ほかでもないシカそのものでした。奈良のシカを、今後どのように血統まで保護していくのか、課題は大きいように思います。
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参考文献
鹿の角きり 一般財団法人 奈良の鹿愛護会
https://naradeer.com/event/tsunokiri.html
元論文
A historic religious sanctuary may have preserved ancestral genetics of Japanese sika deer(Cervus nippon).
https://doi.org/10.1093/jmammal/gyac120
The sacred deer conflict of management after a thousand-year history: hunting in the name of conservation or loss of their genetic identity.
https://doi.org/10.1111/csp2.13084
ライター
百田昌代: 女子美術大学芸術学部絵画科卒。日本画を専攻、伝統素材と現代素材の比較とミクストメディアの実践を行う。芸術以外の興味は科学的視点に基づいた食材・食品の考察、生物、地質、宇宙。日本食肉科学会、日本フードアナリスト協会、スパイスコーディネーター協会会員。
編集者
海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。