奈良公園のシカは周辺地域と近縁ではあるものの独自の遺伝子型を持つ集団であることがわかりました。

奈良公園のシカはよく人に慣れていて、鹿せんべいをねだる姿のかわいさなどから観光資源にもなっていますが、野生のシカで天然記念物に指定されています。

奈良教育大学、福島大学、山形大学からなる共同研究グループが、奈良公園と紀伊半島各地のニホンジカを対象に詳細な遺伝解析を実施したところ、奈良公園のシカは 1000年以上もの長きにわたり人々によって守られて生き残ってきた特殊な存在であり、まさに生きている文化財のような存在であることが明らかになりました。

この研究成果はアメリカ哺乳類学会(The American Society of Mammalogists)の学会誌『Journal ofMammalogy』に2022 年1 月 31 日付でオンライン公開されています。

目次

  • 奈良のシカが「お鹿様」になったワケ
  • 「お鹿様」は科学的に見ても特別な存在だった
  • 「お鹿様」に迫りくる遺伝的な危機

奈良のシカが「お鹿様」になったワケ

奈良のシカが特別な野生動物ということは外国にもよく知られています。

奈良のシカはいつから「お鹿様」となったかははっきりしていませんが、保護されるようになったのは春日大社の創建時まで遡ります。

社殿の造営は768年。奈良時代初めに鹿島の地から武甕槌命(タケミカヅチノミコト)を御蓋山にお迎えし、祀ったのが始まりで、お迎えした時に武甕槌命は白鹿に乗って降臨されたという言い伝えがあります。

768年から既にお鹿様だったとすると1000年以上の歴史があることになりますね。

春日鹿曼荼羅。春日退社と神鹿の関係を描いている
春日鹿曼荼羅。春日退社と神鹿の関係を描いている / Credit: Wikimedia Commons/ナゾロジー編