現代においては、奈良県は奈良市内を保護地区、管理地区、緩衝地区の3つに分けることにしました。3つの地区のうち、管理地区では農業や林業の被害対策のため、シカの捕獲事業を行うことにしたのです。この事業は2017 年度より実施されています。

ここで問題になるのは、管理地区で捕獲されたシカたちはどこから来たのか?ということです。保護地区から来たお鹿様なのでしょうか?

奈良市の位置。他の地域のニホンジカとは離れたところにある…はず
奈良市の位置。他の地域のニホンジカとは離れたところにある…はず / Credit: GoogleMap

研究チームはこれについても調べました。奈良市内のシカの血縁関係をDNA解析によって調べました。そうやって管理地区のシカの由来や交配の状況を調査。

その結果、管理地区では市外からやってきた個体が多いことがわかりました。お鹿様とは違うグループのシカたちです。しかし、その一部は保護地区にも入り込んでいる可能性が高いことがわかりました。市外のシカがお鹿様の中にしれっと入り込んでいるということになります。

さらに緩衝地区に近い管理地区では、保護地区由来のお鹿様と市外から来たただのシカが混在し、交配していることもわかりました。お鹿様が他のグループから長期間孤立していたことや、遺伝子レベルで他のシカとは違うお鹿様の特徴は変化しつつあるのでしょうか。

シカは一頭のオスが何頭ものメスを引き連れて群れを作る動物です。オスは若いうちから群れを離れ、メスを求めて移動します。そんな中で保護地区に入り込んでくることがあるかもしれないし、保護地区から出て緩衝地区に入り込んでくることがあるかもしれません。

他地域のシカが保護地区に入り込み、奈良のシカの血統が変わってしまうかもしれない
他地域のシカが保護地区に入り込み、奈良のシカの血統が変わってしまうかもしれない / Credit: Wikimedia Commons

調査研究の結果、1000年を超えて他にはない遺伝子を獲得してきたお鹿様は周辺地域と近縁ではあるものの独自の遺伝子型を持つ集団であることがわかりました。これは奈良周辺地域にはお鹿様以外のシカがいなかったこと、お鹿様は神鹿として保護されてきたことにより1000年以上、他地域のシカとは違ったDNAを持って生き残ってくることができたということです。