そのため「武装解除」と聞いて、「おお、これは国連がPKOミッションを通じて行うDDR(武装解除・動員解除・社会再統合)のことだな」と杓子定規に反応してしまっている方がいる。「アサド憎し」の強い立場を取っている評論家層が、アサドを倒した者は誰であれ素晴らしい人物だ、という態度を取る仕草を取り続けていうことも、影響しているだろう。
しかし、上述の状況にある政治プロセスに先行する独裁権力の強権を前提にした「武装解除」は「DDR」では、むしろタブーである。また、「DDR」の概念は、「武装解除」を「動員解除」のみならず「社会再統合」とあわせて行うことを明確にするために、用いられる。シリアの暫定政権が、そのような政策的方向性を打ち出している様子は見られない。
シリアの状況は、せいぜい16世紀末の日本で豊臣秀吉が行った「刀狩」のイメージに近いだろう。優越的な武力を背景にして、他の勢力の武装解除を行う、ということは、武装解除に従わない者は敵だと認定して攻撃する、ということを意味する。
国際社会標準の「DDR」は、現代では、たとえば「IDDRS Framework(統合DDR基準枠組み)」などに体系化されている。
「シリアでやるのがDDRだ!国連のDDRなど知らない!」と言っているかのように受け止められかねない態度をとるのは、無責任である。
HTSは現在、支援者を広げるために外国勢力に働きかけている。トルコの影響下にあるのが基本であるため、その流れに沿ったアラブ諸国との関係構築が、最重要課題だ。具体的には、トルコと良好な関係にあるカタールだ。トルコのフィダン外相に続き、カタールのムハンマド首相兼外相が、シャラア氏とダマスカスで会談し、投資案件まで協議したと報じられている。
そのトルコが、シリアで最重要の戦略的課題と明言しているのが、シリア北部のクルド勢力の封じ込めである。もちろんそれは、理論的には、クルド人自治区に潜んでいるクルド労働者党(PKK)の流れをくむ「クルド人民防衛隊(YPG)」が解散でもすれば済む話であろう。