シリア暫定政府が、国軍創設のためにシリア国内の諸派の武装解除を宣言した。これを日本のメディアが、旧反体制派の全てを集めて合意をとった、かのように報じた。だが、いささか誤解が生じているようだ。これについて当然の留意点がある。
第一に、アサド政権崩壊にあたっていち早くダマスカスに入って暫定政権を樹立したHTSの「ジャウラニ指導者」(アフマド・シャラア氏)は、武装解除のみならず、憲法停止・新憲法制定などの絶大な権力をふるっているが、単に非合法な手段で「最高指導者」と言われているだけではなく、実は暫定政権にも役職を持っていない。政府外の超越的存在である。
これが何を意味するのかは、まだ判然としないが、「最高指導者」として全土の武装解除を求めている人物が政府に役職を持っていないことには、留意しておく必要がある。
第二に、ダマスカスでシャラア氏の協議対象になっているのは、協力関係にある限られた層の人々でしかない。仮にHTSと行動を共にした「旧反体制派」だったと言えるとしても、シリア全土の諸集団を代表しているとは、とても言えない。
第三に、武装解除を、政治プロセスの協議に先行させて行うやり方は、通常は避けなければならないものだ。正当な政府と認めていないどころか、ほとんど関係もない集団に、「武装解除しろ」と言われて、黙って武装解除するのは、よほど力が弱くて威嚇に屈せざるをえない集団だけだろう。武装解除の前提になる条件を決める話し合いの政治プロセスがなければ、暫定政府は、他者を威嚇して武器を捨てるように命じているだけにすぎない。
おそらくシャラア氏には、外国人又は外国事情に精通した助言者が取り巻きにいる。「アル・カイダ」としての過去を捨てるために、ネクタイ・スーツ姿をアピールしてみているだけでなく、言葉遣いなどでも、国際メディア受けを狙っている。