立憲民主党改正案の「連座制」の疑問点

これに対して、立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】では、

「第1 政治資金収支報告に関する処罰の強化」の《1 収支報告書の不記載、虚偽記入等に係る「連座制」》とする項目で、

政治団体の収支報告書について、会計責任者に加え、代表者にもその記載及び提出を義務付けること。 ※ 代表者において、収支報告書の不記載や虚偽記入等に故意・重過失がある場合に処罰されることになる(⇒ 公民権停止の対象となる。)。

とされている。

この「代表者にも収支報告書の記載及び提出の義務付けをする」というのは、どういう意味なのであろうか。政治資金規正法の基本構造、収支報告書の記載実務の観点からすると、理解が困難だ。

会計責任者は、政治資金の収支について会計帳簿を備え作成する(政治資金規正法9条1項1号)、また、「政治団体の代表者若しくは会計責任者と意思を通じて当該政治団体のために寄附を受けた者」は、「寄附を受けた日から七日以内」に、「寄附をした者の氏名、住所及び職業並びに当該寄附の金額及び年月日を記載した明細書」を会計責任者に提出しなければならない、とされている(10条1項)

このような形で会計責任者に政治資金の収支に関する情報が集中することになっているからこそ、会計責任者は、その情報に基づいて正確に政治資金収支報告書を作成し提出する義務を負うのである。

一方、代表者には、そのような「情報を得る仕組み」がないので、独自に「収支報告書の記載及び提出」を行うこと自体が不可能である。

立憲民主党案で、「代表者にも収支報告書の記載及び提出の義務付けをする」と言っていながら、代表者が処罰されるのが「収支報告書の不記載や虚偽記入等に故意・重過失がある場合」に限定されているという点も問題がある。

結局、「裏金」「不記載」等が問題となった場合に、代表者が、そのような収入について認識していた場合だけが処罰の対象になるということであろう。その「認識」の根拠となる事実がなければ処罰できないのであり、「確認書」の提出を求める自民党案と、ほとんど変わらない。むしろ、確認書の提出に際して会計責任者とのコミュニケーションを求める自民党案の方がまだまし、ということになる。

立憲民主党の国対ヒアリングで、私は「政治家個人に収支報告書作成・提出義務を課すこと」の提案も行った。立憲民主党の【政治資金規正法改正案骨子】で「連座制」と称している「代表者の収支報告書作成提出義務」は、私が提案した「政治家個人の収支報告書作成・提出義務」とは似て非なるものであり、一見「厳しい対案」のように見えるが、「裏金問題」の再発防止策としての実効性が期待できるものではない。

このような「対案」で国会審議に臨んでも、「自民党案批判のパフォーマンスを狙っただけのもの」であることを露呈することになりかねない。それによって、政治資金規正法改正に向けての議論で勢いを失ってしまえば、結局、「抜本改正に向けての議論」にはたどり着けないことになってしまう。

「連座制」に関して、早急に再検討を行う必要があると考えられる。

「政治資金規正法の『大穴』」を無視した捜査・処分とその結末

今回の問題では、「裏金議員」に対する政治資金規正法による処罰がほとんど行われず、所得税の課税・納税すら行われていない。そのような事態に至ったことに関して、検察の捜査・処分に疑問があることは、これまでも再三指摘してきた(【「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因!】など)。

政治資金収支報告書というのは、個別の政党、政党支部、政治団体ごとに、それぞれの会計責任者が提出するものである。国会議員の場合、政治団体である「資金管理団体」のほかに、自身が代表を務める「政党支部」があり、そのほかにも複数の国会議員関係団体があるのが一般的だ。つまり、一人の国会議員に「財布」が複数ある。

議員個人が「裏金」として政治資金を受け取った場合、それは、その議員に関係する政治団体・政党支部のどこの収支報告書にも記載しない、という前提でやり取りする。議員の側は、「どの政治団体の収支報告書にも記載しない前提で「裏金」として受け取った」ということである。

その場合、検察が政治資金収支報告書の虚偽記入・不記載の事件にしようとしても、そのお金を、どの政治団体又は政党支部の収支報告書に記載すべきだったのかが特定できない。犯罪事実が特定できない以上、政治団体等の収支報告書の不記載・虚偽記入罪での処罰は困難なのである。

このような、政治家個人に渡った「裏金」について政治資金規正法での処罰が困難であるという「政治資金規正法の大穴」問題について、私は、Yahoo!ニュースの投稿や、著書【歪んだ法に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」】(KADOKAWA:2023年)等で取り上げ、今回の問題についても、その「大穴」によって裏金議員の処罰が困難であることを指摘してきた(【日本の法律は「政治家の裏金」を黙認している…「令和のリクルート事件」でも自民党議員が逮捕されない理由】など)。

もし、検察が「政治資金規正法の『大穴』」の問題があることを踏まえて検察捜査を行うとすると、政治資金収支報告書の虚偽記入・不記載罪より、むしろ、政治資金規正法21条の2第1項の「政治家個人宛の政治資金の寄附」の禁止規定を適用する方が、実態に即していたといえる。

ノルマ超の売上の「還流」あるいは、パーティー券の売上の一部を議員側に留保する「中抜き」によって議員側に提供された「裏金」は、「収支報告書に記載しない前提の金である以上、資金管理団体、政党支部などに宛てた政治資金ではく、収支報告書の記載対象ではない政治家個人宛の寄附」というのが自然な見方だ。

収支報告書を提出しない前提の金なのだから「政治家個人宛の寄附」であったことを、授受の当事者双方に認めさせる方向で捜査を行えば、少なくとも「裏金」を議員個人の口座で保管していたり、議員個人から政治団体への貸付で処理していたケースなど、「政治家個人への帰属」が客観的に認められる議員については、21条の2第1項違反で処罰することが可能であり、「裏金」を、原則として議員の個人所得として認定し、課税することも可能になったはずだ。

しかし、実際の検察の捜査は、それとは真逆の方向で行われた。

還流金・中抜きが資金管理団体などの政治団体に帰属していることを認めさせ、それを、資金管理団体、政党支部の政治資金収支報告書に記載しなかった問題としてとらえ、その方向で、政治資金収支報告書の訂正を行うことで、検察捜査は決着した(下村博文氏など一部所属議員は、この収支報告書の訂正が、検察側の示唆によるものと説明している)。

その結果、政治資金規正法違反で起訴された国会議員は、「取引的決着」としての略式命令に応じた谷川弥一氏のほか、池田佳隆及び大野泰正の2名のみであり、公判で「政治資金の帰属」の問題が争われれば、有罪判決となるのかもわからない(【「裏金」事件の捜査・処分からすれば、連座制導入は「民主主義への脅威」になりかねない】)。

そして、これらの「裏金」について、個人所得としての課税は全く行われなかった。

このような捜査・処分の結末に対して、国民は大きな不満を持っている。それは、「現行の政治資金規正法が、会計責任者に、収支報告書の作成・提出に関する義務を集中させているために、代表者たる国会議員が処罰を免れている」という単純な問題によるものではないのである。