フィクション作品ではよく、寄生虫やエイリアンに体を乗っ取られた人物が、前より魅力的になって他人を誘惑する姿が描かれます。

ただ、これが単なる作り話ではないかもしれません。

フィンランド・トゥルク大学(University of Turku)による2022年の研究で、寄生生物のトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)に感染した男女は、感染していない人に比べ、「外見が魅力的で健康そうに見える」と評価されることがわかったのです。

トキソプラズマは宿主を魅力的にして他人を惹きつけやすくすることで、感染経路の拡大を狙っているのかもしれません。

研究の詳細は2022年3月25日付で科学雑誌『PeerJ』に掲載されています。

目次

  • トキソプラズマはヒト間で「性感染」するのか?
  • 感染者は「見た目」の魅力度が高く、性的パートナーも多かった

トキソプラズマはヒト間で「性感染」するのか?

トキソプラズマは、単細胞の微小な寄生原虫で、ネコ科の動物を最終的な宿主とします。

その間の中間宿主として、ヒトやブタ、ヤギ、ネズミ、ニワトリなど、200種以上の恒温動物に感染します。

すでに世界人口の約3分の1がトキソプラズマに感染していると指摘されるほど、メジャーな寄生生物です。

紫で染色されたトキソプラズマ
紫で染色されたトキソプラズマ / Credit: ja.wikipedia

しかしトキソプラズマに感染しても約8割の成人は無症状で、とくに体調に異常はありません。

残りの2割で発熱や筋肉痛、疲労感があらわれますが、数週間ほどで回復し、慢性状態へと移行します。

ヒトへの主な感染経路は、加熱不十分の食肉や、ネコあるいは他の中間宿主の糞便に含まれるトキソプラズマを何らかの経路で摂取した場合です。

感染者の母親から胎盤を介して、胎児に感染するケースもあります。

そしてこれまでの研究では、この母子感染を除くと「ヒトからヒトへは基本的に感染しない」と主張されてきました。

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ヒトに対するトキソプラズマの基本的な感染経路/Credit: 国立感染症研究所(NIID)