ネジ一本調達するのに、帝国の女王は、愛娘に美貌を与え、人さらいめいた銀河鉄道の旅を果てしなく繰り返させる… なんと非効率な!
こんなわけのわからないお話を、二時間の長編感動青春映画にしろと言われたら、たいていの脚本家は席を立ってしまうだろう。
岸恵子の主演映画にも参加しかし石森史郎氏はそうしなかった。宇宙海賊ハーロックだの永遠の命だの、こんなものの物語的整合性を保つのはぶん投げて、主人公の男の子の、銀河超特急999の旅の目的をはっきりさせることに専心した。
原作まんがでは「終着駅にいけば機械の体を無償提供してくれると母さんが遺言を残したから」と主人公・鉄郎は言う。それに石森氏はおそらく噛みついていった。貴様は母親を機械化人に殺されていたのではないのか?いくら復讐は果たしたといっても、その後自分の機械化を夢見るのはおかしくないか?
この執拗な尋問の末に、原作の鉄郎と同じ魂を持ちながら、もっと一貫性のある、それと共に思春期化もされた主人公が立ち現れた。彼が999に乗りたいと願うまでの道筋が、彼の回想(十歳のときの母親との死別が、夢を視覚化する装置ごしに再生される)や、美女メーテルとの会話を通して明確に説明されていく。
鉄郎の再創造⓵機械化人(物語世界においては支配階級と同義)が憎い、②機械化人の統べるこの地球から脱出したい、③母を殺した機械化人伯爵をこの手で成敗したい、④宇宙を舞台に自由に生きたい、宇宙海賊たちのように、⑤そのうえで機械化人になって永遠の命を得られれば、言うことなし、と。
そんな彼に、メーテルは超特急999の乗車券をくれる。どうしてくれるかというと、それは人さらいだからだが、映画序盤でそれを明かしては物語が台無しなので、違う理由が彼(そして観客)には提示される。「ボディガードが欲しいから」と。
「一人旅では心細いからあなたに連れていってほしい」。少年の自尊心を損なわないよう、彼女は笑顔でこう切り出す。鉄郎は基本的に単細胞頭だからさっさとこれにのってしまう。単細胞ゆえに観客もこの子に感情移入しやすくなる。999出発! ②機械化人の統べるこの地球から脱出したい、という夢がこれで果たされる。