2. 妻が帽子に見える男

 脳神経科医で作家の故オリバー・サックス氏の著書『The Man Who Mistook His Wife For A Hat』(『妻と帽子をまちがえた男』ハヤカワ文庫)では、“P博士”という人物の視覚失認症(visual agnosia)の症例を紹介している。視覚失認症は脳の後頭葉や頭頂葉の損傷が原因だといわれているが、見えているものを正確に把握することができないという不可解な症状である。

 例えば妻の顔が帽子に見えたり、人がいない場所でもあちこちに人の顔が見えたりするといったものだ。

「路上で彼(P博士)は消火栓やパーキングメーターを見ると、子どもたちの頭であるかのようによしよしとなでました。また家具のノブにむかって愛想よく話しかけますが、返事がないことに驚きます」(オリバー・サックス氏)