2023年秋、北海道函館市内の大学生がクマに襲われ死亡した。被害者の学生は、2024年春から北海道大学大学院の国際食資源学院に進むことも決まっていたという。
この年は、日本全国で連日のようにクマによる人的被害が多発した。
10月17日には、秋田県大館市できのこ採りをしていた80歳の女性と会社の敷地内を歩いていた40代の男性が、クマに襲われて頭や背中などに怪我をし、同じ日には、富山県富山市で70代女性が自宅にいたところをクマに襲われ、命を落とした。翌18日には、福井県勝山市で農作業をしていた男性がクマに襲われ頭に怪我を負い、その翌日の19日には、秋田県北秋田市の市街地で、16歳の高校1年生の女子生徒と80代の女性3人が相次いでクマに襲われた。このうち83歳の女性は顔をひっかかれて負った傷からの出血が多く、腕や腰にも骨折をする大怪我を負った。3
クマによる被害人数は、環境省が統計を取り始めた平成20年度調査以来で過去最悪となり、全国統計では2023年2月の暫定値時点で2022年度(75人)の2・9倍以上の218人、死亡例は2022年度の3倍となる6人に及んでいる。4
こうした中、クマ駆除に対するクレーム、という言葉では足らないような誹謗中傷攻撃が行政に(当事者にも)相次いでいるという【二次被害】も発生し、社会問題となっています。本書では、その背景にある心性が指摘されています。
彼ら彼女らには「『かわいい』あるいは『罪のない』野生のクマという『弱者』の命を奪おうとする『横暴な』『強者』である人間」のような思い込みが前提にあり、クマ(=弱者、被害者)を護る「優しさ」を掲げて行動すれば、あるいは自身が人一倍「優しい」、「正しい」側に立つ人間で在れると信じられているのかもしれない。
しかし、現実として地域や人々に多大な被害をもたらしているクマを、一方的に「弱者」や「被害者」であるかのように見立て、リスクがない遠方から「生き物を殺すな」との原理原則、理想論を振り回し、赤の他人に上から目線で説教あるいは命令する「やさしさ」は結局、誰のためか。抗議者の中には行政のみならず、クマに襲われた被害者の家にまで「自業自得だ」などと電話をかける者までいたという。*5