新政権の政策の内容が不透明であることは、言うまでもない。新政権は、憲法の停止を宣言したうえで、新たな憲法を作るとしているが、具体的な内容の取りまとめには難航も予想される。中東の世俗国家としてのアイデンティティを持っていたシリアがイスラム主義へと舵を切っていくと思われるが、どの程度、どのように、そうなるのかは、未知数だ。憲法の内容によって、内政面だけでなく、周辺国との関係にも、影響が出てくるだろう。

5.クルドの動向

シリアの領土の3割といった面積を支配しているのは、北東部を拠点にするクルド系のSDF(シリア防衛軍)だ。このまま独立でなくても、大幅な自治権を確立したいはずである。すでにアサド政権崩壊時から、トルコに支援されたSNAが、そのクルドの動きを封じこめる動きに出ている。北部におけるSDFとSNAの武力衝突は、とりあえずの停戦状態に至った。アメリカが調停したと言われる。東部に自国の基地と、その周辺の特別区域を維持するアメリカは、SDFと緊密な関係にある。現在はそれだけに、SDFにダマスカスの新政権と良好な関係を構築してほしいと、アメリカは願っているようである。だがそれは簡単なことではない。

6.ロシア基地の帰趨

ロシアは地中海沿岸部に、ラタキアのフメイミム空軍基地とタルトゥースの海軍基地を持っている。すでにこれらの基地から、航空機・船舶と人員を移動させている動きを見せていることは報告されている。だがこれはまだ、とりあえずは一時的な避難の域を出ていない。ロシアとシリア国家の間には、基地使用に関する協定があるため、新政権が協定破棄の明示的な動きを取らない限り、むしろ維持されるのが基本だ。ロシアは、HTSがアレッポを11月末に陥落させた後、空爆を行った。しかしその後のダマスカスまでの12月の南進に際しては、手を出さなかった。アサド政権を見限って「損切り」をした動きであったと言える。HTS側も、地中海沿岸に軍事的侵攻をする目立った動きを見せていない。ロシアの核心的利益は、アサド政権擁護ではなく、基地の維持である。そのための「損切り」であったことは、新政権側にも伝わっているだろう。「損切り」の着地点はまだ見定まっていないが、必ずしも単純ではないものになるだろう。

7.トルコの野心