シリアのアサド政権が崩壊してから、情報が混乱している。シリアの知識が浅い方々が奇妙なことを言っているから、ではない。長年シリアに関わってきた方々が、「アサド派の〇〇を糾弾せよ」の日本国内の特定人物の誹謗中傷ばかりに熱を入れているからだ。

もちろん事態は依然として流動的である。確定的な未来を予測するのは難しい。だがそれだけに、注意しておくべき点に注意を払う姿勢は、失うべきではない。

1.政権の内実

当然の話だが、新政権の内実には、必ずしも明らかではないところがある。巷では、HTS(タハリール・アル=シャーム)中心の勢力が、どれくらい旧政権関係者に復讐をするのか、少数民族集団などをどう扱っていくのかが、大きな焦点になっている。HTSがアルカイダか否か、といった物語をめぐって人格攻撃にも至る口論が起こっているが、すでに以前の記事で述べたとおり、そのことを字面通り受け止めて論争することには、あまり実質的な意味はない。HTSがイスラム主義のイデオロギーを持っていることに疑いはないが、アサド政権崩壊の過程で、各外国勢力と通じていた実利的な面も見せている。旧アサド政権の関係者で、新政権と協力している者もいる。行政機構の職員は、温存される方針だ。それが何を意味するのかは、まだ見えてきていない。

HTSの指導者 アブー・ムハンマド・アル=ジャウラーニー氏

2.HTSとSNAの関係

ダマスカスをめぐる動きで一番大きな焦点となるのは、アサド政権崩壊まで連携したHTSとSNA(シリア国民軍)が共闘し続けられるのか、だろう。アサド政権に対抗し続けた諸集団の中で、際立った勢力を誇る。二つともトルコの支援を受けているが、より緊密にトルコとつながっているのは、SNAのほうだ。クルド系住民居住地区の取り扱いやイスラエルとの関係などの争点をめぐって、両者の違いが鮮明になる可能性はある。

3.少数派集団の動向

イスラム主義の傾向を強く持つ新政権が、少数者集団をどう扱うかが、注目されている。宗派的には、アサド前大統領の出身母体であるアラウィー派の人々は、新政権の治安関係の部署からは排除されることが布告された。他の政府機関からも排斥される可能性も高いだろう。キリスト教徒に対する差別的行動の現象も目撃されている。今後の情勢を見極めるために特に重要なのは、ドゥルーズ派の人々の動向だ。今回のアサド政権崩壊をけん引した諸勢力の中で、南部で蜂起したのは、「南部作戦室(Southern Operations Room: SOR)という共同戦線だが、SORを攻勢している諸勢力の中には、南部に住民が多数住むドゥルーズ派の人々などが含まれている。この系統の人々は、アサド政権崩壊までは共闘したとして、今後もHTSやSNAと協力していくのかどうかは、わからない。シリア領ゴラン高原をイスラエル軍が占領したのに反応して、対象地のドゥルーズ派の住民が、ダマスカスの新政権の支配よりも、イスラエルの統治を望む、と主張している村落の集会の動画なども出回っている。

4.国家体制をめぐる対立