その結果、セミディラックフェルミオンの存在を示す鍵となる、「あらゆる方向へ流れ出す電子たち」が出揃ったのです。
ここで重要なのは、この電子たちがどの方向に動いているのか、その状態がどうなっているのかを正確に見極めることです。
もしこれに成功すれば、セミディラックフェルミオンが実在する決定的な証拠をつかむことができます。
研究者たちは、この結晶状態に光を当てて“光学的応答”を測定することにしました。
光がどう反射・透過されるかを調べることで、内部の電子配置やその振る舞いを読み解く手法です。
すでに数々の研究で実績があり、物質内部の異常な状態をあぶり出すのにも向いています。
その結果、通常では考えられない観測データが得られました。
特に、電子の進む経路と「交差点」に注目すると、面白い現象が浮かび上がったのです。
磁場をかけている方向(N-S極)に沿って電子が動くと、有効質量が消失したかのような状態になる一方、直行する方向に向かうと、今度は有効質量が発現するかのように見える——まさに理論で予測されていたセミディラックフェルミオンの特徴そのものです。
こうした不思議な観測結果を前に、研究者たちは実験と理論の両面から徹底的な分析を敢行。
その結論は、2008~2009年にかけて理論的に示唆されていたセミディラックフェルミオンが、現実の結晶内部でついに初めて確認された、というものでした。
もっとも、電子が「質量を失う」ように見えるこの現象は、私たちの日常感覚からすれば到底理解しがたいでしょう。
次のページでは、研究者自身の言葉を交えながら、結晶内部でどのようにして「質量が消えたかのような」状態が生まれるのかを、研究者たちの言葉をもとに噛み砕いて説明していきます。