BBCの「Predator: The Secret Scandal of J-POP」は、ジャニー喜多川氏の性加害問題を告発し、日本社会で長年放置されてきた問題を明るみに出した。 ドキュメンタリー制作は、取材や調査の困難を乗り越えつつ、外部視点からの分析を通じて日本の縦社会やジャーナリズムの課題を浮き彫りにした。 被害者の声が社会に届き、議論を巻き起こしたことは、ドキュメンタリーの意義を証明する結果となった。
昨年3月、英BBCで放送されたドキュメンタリー「Predator:The Secret Scandal ofJ-POP」(J-POPの捕食者秘められたスキャンダル)は、日本のジャニーズ事務所の創業者・故ジャニー喜多川氏による数十年にわたる年少者への性加害の実態を暴露した。
翌4月、元ジャニーズ・ジュニアだった男性が被害を訴える会見を開くと、津波のように次々と被害者が声を上げだした。9月、事務所は記者会見で性加害の事実を初めて認めた。翌10月、「SMILE-UP.」と社名変更され、被害者のケア・補償を行うことになった。
英国の番組が日本の社会に大きなうねりを作ることは珍しい。今年10月、NHKは特別番組枠で「ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」を放送し、ジャニー氏の生い立ちから性加害事件に至るまでの背景を描いた。
筆者は、この夏、「J-POPの捕食者秘められたスキャンダル」のプロデューサー兼監督だったインマン恵(めぐみ)氏にロンドンで話を聞く機会を得た。インマン氏は日英で育ち、日本の複数のテレビ番組の制作にかかわった経験もある。
「今でも続く事件」と喜多川氏の性加害事件をとらえるインマン氏にその経歴の始まりから、「J-POPの捕食者」での制作、その続編として、今年春に放送された「捕食者の影ジャニーズ解体のその後」、さらに広島と長崎の原爆被爆者の証言を集めた「アトミックピープル」の背景と今後の作品について幅広く聞いてみた。