再発した乳がんの治療に、自己実験を行うという前例のない決断を下したクロアチア・ザグレブ大学 (University of Zagreb) のウイルス学者Beata Halassy (ベアタ・ハラッシ) 氏。
医師たちのモニタリングのもと、自身の研究室で培養したウイルスを用いて治療を行いました。
科学的挑戦と倫理的課題が交錯するこのケースは、新たながん治療の可能性を示すと同時に、慎重な科学的検証の重要性を浮き彫りにしています。
研究の詳細は2024年8月23日付で学術誌『Vaccines』に掲載されています。
目次
- 再発した乳がんと科学者の決断:ウイルス療法への挑戦
- 未知の治療法とその結末:ウイルス療法がもたらしたもの
再発した乳がんと科学者の決断:ウイルス療法への挑戦
2020年、49歳のウイルス学者のBeata Halassy (ベアタ・ハラッシ) 氏は、乳がんの再発という厳しい現実に直面しました。
左乳房を切除してから数年後、同じ部位で再び腫瘍が発生していることが判明したのです。
今回の診断は、筋肉にまで浸潤するステージ3の乳がんでした。
これまでの治療で再発を防げなかったという事実は、かなり彼女を落胆させました。
以前の化学療法で経験した副作用や身体的・精神的な負担を考えると、彼女は同じ治療方法を選択する気持ちにはなれなかったようです。
そこで、彼女は自身の専門分野であるウイルス研究分野で報告されている「腫瘍溶解性ウイルス療法 (OVT)」 という新しい治療法に目を向けました。
OVTは、ウイルスを利用してがん細胞を攻撃すると同時に免疫系を活性化させる治療法です。
こうしたアプローチは、アメリカでは一部の皮膚がんに対する治療法として承認されています。
しかし、乳がんへの有効性はまだ十分に検証されておらず、かなりリスクの高い治療法です。