「少なくとも3000億ドル」の金額は、議長国の当初案段階では2500億ドルであった。先進国はこれを受け入れたものの、途上国側は「少なくとも5000億ドル」を主張し、調整は最後の最後まで紛糾し、最終的に「少なくとも3000億ドル」で決着した。
先進国が1.3兆ドルを支払うべきだと主張していた途上国の視点から見れば、納得のできない数字である。
NCQGの決定文が採択された後、発言を求めたインドは、
「途上国は、成長を犠牲にしてでも、炭素排出ゼロの道へと移行することを迫られている。この移行を本当に容易ならざるものにするために、先進国締約国によって国境調整措置その他の措置が課されている。先進国締約国が自らの責任を果たす意思がないことが明確に示された結果に失望している。我々はこれを受け入れることができない。この金額はあまりにも微々たるものであり、気候変動対策を促進するものではない」
と強硬な口調で不満を表明し、会場から大きな拍手を浴びた。ナイジェリア、ボリビア、マラウィ等も異口同音に「合意を受け入れられない」と述べた。
ただ、インド等はCOP29の合意そのものをひっくり返そうとしたわけではない。合意は妨げないが自分たちの強い不満を記録に残すということである。
会場において環境活動家たちは「No deal is better than bad deal」と気勢をあげていたが、結果的には「Bad deal is better than no deal」となった。
新たな資金目標を決めるCOP29は、パリ協定を採択したCOP21以降、途上国が最も重視するCOPであり、NCQGについては2025年のCOP30(ブラジル・ベレム)まで持ち越すことも考えられたはずである。
にもかかわらずCOP29で妥協した背景には、2025年には米国におけるトランプ政権の誕生、ドイツにおける政権交代の見通し等、温暖化防止アジェンダの国際的地合いが悪くなることが予想される中、合意できるうちに合意をしようという計算が交渉官たちの間に働いたものと考えられる。