途上国がCOP交渉に参加する最大の動機は、先進国から資金、技術援助を引き出すことである。その意味で新たな資金目標を設定する2024年のCOP29はパリ協定を採択したCOP21以来、途上国にとって最も重要なCOPであったと言ってよい。

当然ながらNCQGの議論は大いに紛糾した。途上国は自分たちの緩和、適応行動更には損失と損害も含め、年間少なくとも1.3兆ドルを先進国が支払うこと、1.3兆ドルは譲許的な公的資金であるべきであり、更に緩和、適応、損失と損害の内訳目標も示すこと等を要求した。

それまでの資金援助目標が1000億ドル(100 billion USD)であったものを10倍以上に引き上げ、兆ドル単位(trillion USD)を要求することから、「Not billion, but trillion」が途上国及び彼らを支援する環境活動家たちの合言葉となった。

これに対して先進国は具体的な資金援助目標の数値をなかなか提示しなかった。先進国自身、国内経済に様々な課題をかかえている中で、途上国に対して安易に大幅な資金援助拡大をコミットすることはできない。

先進国は「具体的な金額を決める前にNCQGのドナー、カバーする資金の範囲、資金の受益国等をまず固めるべきである」と主張し、NCQGのドナーを先進国のみならず、能力のある途上国(中国、産油国等)にも広げること、民間資金を含む多様な資金源から調達すること、受益国を小島嶼国、低開発国等のぜい弱国に絞ること等を主張し、損失と損害向けの資金の算入や緩和、適応、損失と損害の内訳目標には反対してきた。

途上国にとってもっとも関心の高い資金援助目標については、交渉2週目の半ばころになってようやく2000億ドルという数字が先進国側から浮上してきた。

もちろん先進国だけで2000億ドルを出すというものではなく、ドナー範囲を広げ、資金の範囲も広げ、対象国を絞るという上記の主張を前提としたものである。加えて先進国はNCQGを合意するのと同時に緩和についても野心的な行動を盛り込むことを主張していた。つまり2000億ドルは無条件のオファーではなく、全体のパッケージの一環であった。