しかしクレン氏が「PyTheus」に実験手法を出力させようとすると、既存の実験手法を吐き出す代わりに、予想もつかなかった全く新しい方法を提案してきたのです。

この新たな方法は、既存の実験よりも圧倒的に簡易であり、ベル測定や補助光子といったこれまで必須と考えられていたアイテムを使用しないものでした。

代わりに光子の進路や光子の出発点の区別がつかなくさせるだけの、非常に簡易な方法で、異なる光子ペアに属していた光子が新たに量子もつれ状態になると示したのです。

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Credit:Kai Wang . arXiv (2024)

先にも述べたように、異なる起源を持つ光子対の間で量子もつれを作るには

①事前の量子もつれの生成

②新規の量子もつれを形成するための特殊な測定(ベル測定)

③補助光子の使用

が必須とされていましたが、AIの吐き出した実験計画にはそれらを行う過程が抜け落ちていたからです。

あえて生物学の実験でたとえるならば、DNAを抽出するのに必須であると考えられている、細胞のすり潰しや遠心分離といった過程が抜け落ちた実験手順が出力されたようなものです。

そのためクレン氏は当初、AIが出力した実験方法について、間違っていると考えました。

しかしAIの出力した実験手法をよく見てみると、あながち間違っていない可能性も浮かんできました。

これまで行われた研究の中には、量子の情報を消去する過程を経ることで、新規の量子もつれのを発生させられるとする結果もあったからです。

そしてAIが吐き出した実験手法も、2対の光子(4光子)の起源がわからなくなってしまう過程が含まれていました。

認識可能な情報が本質的に存在していない場合、わざわざ量子のもつ情報を消さなくても、新たな量子もつれを作成できる可能性があります。

AIの出力した実験方法は量子もつれの交換(エンタングルメントスワッピング)そのものではありませんでしたが、異なる光子対の間に量子もつれを作成するという点においては、十分に可能性があったわけです。