しかしそれと同時に、なぜシャチが死んだサケを頭に乗せるのかという謎は解けていません。
ただ「全く見当がついていないわけでもない」とジャイルズ氏は言います。
まず一つの可能性は、少し残虐ですが、これがシャチたちの遊びの一環であるという説です。
シャチは狩りの学習をする中で、しばしば獲物を手荒く扱うことがあります。例えば、アザラシを狩る際に、無駄に空中に放り投げたり、海面に叩きつけたり、水中でもてあそんだりするのです。
これと同じように、死んだサケを頭に乗せて遊んでいる可能性があります。
他方、もう一つの仮説として、間食用にサケをストックしている説も挙げられています。
これは生息環境にサケが大量繁殖し、餌資源として余りある状態になっているときに起こり得ます。
サケの資源が十二分にあれば、とりあえずお腹いっぱいになるまでサケを食べてもまだ余分な量があります。
そこで今のうちに仕留めておいて頭の上に乗せておけば、小腹が空いたときにすぐにサケにありつけるわけです。
この説が正しいのなら、ファッションというより間食を持ち運んでいる感覚に近いかもしれません。
実際にこの仮説は現在のサウス・プジェット・サウンドの状況と見事に一致しているといいます。
ジャイルズ氏によると、サウス・プジェット・サウンドの海域ではサケが豊富に繁殖しており、「大豊作の状態にある」という。
この仮説はまたシャチ集団に見られる別の行動ともマッチします。
それはシャチが海洋哺乳類のような大型の獲物を仕留めた際、その場ですぐ食べずに、小脇に抱えるようにヒレの下に挟んで持ち運ぶ行動です。
しかし海洋哺乳類に比べて、サケは小脇に挟み込むにはあまりに小さすぎるので、代わりに頭の上に乗っけているのだと考えられます。
いずれの説が正しいのか(あるいは全く別の目的でサケ帽子を被っているのか)はまだ定かでありません。