そこでチームはこれを2センチ四方のシートとして整形しました。

これは食べる用ではなく、医療用としての活躍が期待されるといいます。

しかしなぜスパゲッティと同じ成分で医療用シートを作ろうと考えたのでしょうか?

小麦粉から医療用シートを作るメリットとは?

医療分野では、ナノファイバーと呼ばれる今回作られたスパゲッティと同じか、それ以上の細さの繊維を使ったツールが使われています。

例えば、ナノファイバーをシート状に整形した包帯は、ナノファイバーの非常に多孔質かつ、水と湿気を入れても細菌は入れない性質のおかげで、創傷治癒として有効に機能します。

また他にも、体内における骨再生のための足場や薬物送達のための足場としても利用可能です。

ただし従来のナノファイバーは植物由来の原料からデンプン以外の部分を取り除いて、デンプンだけを抽出する方法を取っていました。

このデンプンを抽出する過程には大量のエネルギーと水が必要であり、コストが高くつく上に環境にも優しくありません。

そこでチームはより安価で環境に優しいナノファイバーを作る方法として、植物繊維からデンプンを抽出する工程を省き、デンプンを多量に含む材料を使って直接ナノファイバーを作ってしまおうと考えたのでした。

それがスパゲッティの原材料である小麦粉だったのです。

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新たに作った医療用シート/ Credit: UCL – Chemists create world’s thinnest spaghetti(2024)

小麦粉は約80%をデンプンが占めており、15%はタンパク質、残り数%は多糖類や脂肪で構成されています。

デンプンだけを抽出せずにナノファイバーを作る試みはかなり挑戦的でしたが、先ほど説明したように、小麦粉をギ酸と共に直接溶かした溶液を作るなどして、デンプンの螺旋構造を解いた最適なナノファイバー成分を得ることができました。

またデンプンの他に少量混じったタンパク質なども、ナノファイバーを作るのに支障はなく、むしろエレクトロスピニング(電界紡糸)でスパゲッティを引っ張り出す際に必要な粘性や導電性を与えてくれたとのことです。