ところが、斎藤知事側が、「真実相当性」の問題を持ち出したことで、県議会の百条委員会の側は、「斎藤知事のパワハラ」の真実性を見極めるための手段として、県職員への匿名アンケート調査という、(最近、企業不祥事の第三者委員会の調査等で多用されるが)極めて問題がある調査手法を用いた。

組織の不祥事が表面化した時点での構成員への匿名アンケートは、回答内容が他人の言動に影響されやすく、自己の体験と伝聞とが区別できないことなど、信用性に非常に問題がある。アンケート回答の内容は、誇張や歪曲も多い(実際に、アンケート調査の回答を多用したスルガ銀行の「カボチャの馬車」問題の第三者委員会報告書の内容は、その後、提起された民事訴訟で一部信用性が否定されている)。

公益通報者保護法に関して問題なのは「斎藤知事のパワハラ」ではないのに、それが法違反に当たるかどうかの最大の問題であるかのように扱われ、しかも、斎藤知事側が不利益処分を行った弁解になるものではない「真実相当性」が論点とされ、それに関して匿名アンケートなどという信用性に疑問がある方法がとられたことで、議論は、「斎藤知事問題の本質」とは全く異なった方向に向かっていった。

片山前副知事が持ち出そうとした「不倫問題」

このような中で、斎藤知事側が、元県民局長の告発文書の信憑性を否定するため、そして、その自殺の原因が、斎藤知事側の問題ではないことの主張の根拠として持ち出したのが、元県民局長の「不倫問題」だった。

7月に辞任した片山安孝前副知事は、百条委員会の証人尋問で、告発者の特定のための兵庫県の調査の過程で、元県民局長の公用パソコンの中から、個人情報の漏洩や庁内の女性との不倫問題に関する文書が発見されていた事実があることを持ち出そうとした。元県民局長の自殺の原因は、百条委員会の証人尋問で、その「不倫問題」が表に出ることを恐れたことが原因である可能性を示すことで、自殺の原因が、斎藤知事側の「犯人捜し」「不利益処分」ではなく、百条委員会側が証人尋問で元県民局長が追い込まれたと主張する意図だった。